美術展


第7回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展 入選作家・作品一覧(五十音順)
青木 香保里
「境界XI、境界XII」
2015年
作家のコメント
この作品は私が大学院生だった頃に制作したもので、こうしてまた展示の機会をいただいたことを本当にうれしく思います。私は元々、墨や顔料などの研究をしていたのですが、そのような限られた素材を使い、二次元という限られた世界で、いかに空間や生命を表現できるかを動機にして描いています。生き物の流動感をダイレクトに感じることのできるクラゲの形を元にしたこの作品は《境界》というシリーズで、画面ごとに分かれていますが、実は右も左も天地もなく、どこにでもつながる構成。2枚で1セットとしていますが、組作品になりすぎないよう少しのズレを意識しています。また、制作自体も下地を作らず一発描きで行っており、経験と偶然性を織り交ぜて描いていくのもテーマの一つになっています。
蒼野 甘夏
「伊邪那岐 鬼払図、
 伊邪那美 月読図」
2017年
作家のコメント
学芸員の方から推薦の話は聞いていましたが、驚きのひと言です。光栄な気持ちと畏れ多い気持ちと半々ですね。最近様々なメディアからの情報を目にするのですが、世の中に溢れる情報をたくさんインプットするよりも、もしかしたら昔の古事記などの物語をじっくり読むほうが自分のためになるのではないか、男女の役割の捉え方、世の中の仕組み、自分の内面を正確に掴めるのではないかという気持ちから、古事記をテーマに描いた作品です。伊邪那岐と伊邪那美はどんな顔をしているだろうと想像で思い描きました。描いているのが本当に楽しかったです。
浅野 友理子
「女将の薬酒」
2017年
作家のコメント
元々、油絵を描いており、日本画とは絵の具の使い方も違うと思うので、入選したことに驚きました。でも、素直にとてもうれしいです。私は色々な地域の昔からの暮らしを取材して、それをもとに作品を描いています。《女将の薬酒》の制作にあたっては、実際に東北地方の温泉地で薬酒を作っている女将さんにやり方を聞いて、自分自身でも作ってみました。そこで得られた体感を、作品を通して表現しています。油絵の具と日本画の岩絵具を両方使った異素材のぶつかる感じが、土地のエネルギーや強さとして反映されていればいいなと思います。
浅見 貴子
「桜木影向図」
2015年
作家のコメント
報告を受けた時は、本当ですか?という感じ。まさか大賞とは思っていませんでした。公園にある実物の桜をモチーフにしたのですが、普段は梅や柿などの庭の木をモチーフにしているので、こんなに大きなものを画面にするにはどうしたらいいだろうと最初は呆然としました。自信がつくまで観察とスケッチを繰り返し、その下絵を元に、木を前にした時の感覚を連続した点で置き換えていく感じで描いています。梅や柿と違い、桜は枝が細くしなやかなので、細い線や小さめの点でグレーを大切にするとともに、余白のとり方にも工夫をこらしました。ある程度、描いた時に何か立ち上がってきた感じがあったので、それを大切に仕上げた作品です。
荒井 経
「樹象 二」
2017年
作家のコメント
これまでとは作風をガラリと変えて発表した作品です。昨年の秋に発表し、その後すぐ推薦を受けて入選でき、こうして紹介していただいて大変ありがたいです。以前は画像的な表現が中心でしたが、このシリーズからは身体動作的な、線を引くことの集積で作品を創るように思い切って方向転換してみました。下描きもスケッチもせず、枝の分かれ方のパターンを筆使いに落とし込み、体で覚え込んだリズムでどんどんと描いていきました。枝が分かれて広がって、広がって、広がりきったところまでが画面。天井高だけは先に決めましたが、画面のサイズは決めずに描いていった作品です。
泉 桐子
「箱庭療法」
2016年
作家のコメント
大きな賞ということは知っていたので、まさか自分が入選するとは思っていませんでした。推薦してくださった方がいるので、いい報告ができるという安心が大きかったです。《箱庭療法》は大学院の修了制作で描いたものです。絵を描く行為は、私にとって一番正しく呼吸をしていられる瞬間。自分を救うために描いているようなところもあり、描き上がっていく作品を見ながら、自分でもいろいろなことを画面から読み取ります。それが心理療法の一種である箱庭療法に重なり、作品のタイトルにしました。大学最後の制作でもあるので、とにかく自由に描いていこうと思った作品です。
イトウ マリ
欲望の根源「溢れ出す欲望の根源」
2014年
作家のコメント
現在暮らしているスペインにまで受賞のお電話をいただいて、驚きとうれしさでいっぱいです。この作品は誰もが無意識のうちに持っている「欲望」をテーマに描いたものです。花の茎の下にあるモコモコした塊の一つひとつに表情を描き、欲望の根源として表現しています。それを糧に花が咲いているわけです。シンメトリーの構図にしたのは、欲望が増殖し、限りなくあふれていくイメージを描きたかったから。この中には、悪い欲望も、いい欲望も併せてビジュアル化した時に、こういうイメージだったらいいなという私の欲望も入っています。
及川 聡子
曹洞宗長泉寺 大書院 襖絵
「水焔図 玄」「水焔図 白」
2016年
曹洞宗長泉寺
作家のコメント
これは曹洞宗長泉寺の襖絵として描いた作品です。普段は保管されているので、今回多くの人に見ていただける機会をいただけたことを本当にうれしく思っています。湯気を描きたいと思ったきっかけは、ある日の朝、パスタを茹でていた時のこと。茹で汁を捨てていると、朝の光に照らされた水蒸気の粒すべてが見えたんです。光を湛えたその様が美しくて、その在りようを描きたいと思いました。日本画の画題には霧、靄、霞などはあるのですが、山を描かない部分を靄で描いたりする。それを私は逆にして湯気自体を描いてみようと思った。日常と日本画の画題、二重の発見から生まれた作品です。

水焔図 玄

水焔図 白
加藤 良造
「三境図」
2017年
作家のコメント
何度か推薦されたことはあるのですが、入選したのは初めて。年齢的にも今年が最後だったので、喜びと同時によかったというのが正直な感想です。私が描き始めた時代は日本画の幅を広げていく動きが主流で、日本画のはじまりについては目が向いていなかった。その原点に目を向けた先にあったのが、見たままではなく「考えを描く写実」。では、その考えとはどこを見て、何を思い描いていたのか…と深掘りして辿りついたのが中国の山水画でした。現実の自然と、自分だけではない社会全体のイメージをブーストさせて描いています。
金子 富之
「高龗」
2017年
ミヅマアートギャラリー
作家のコメント
予想もしない作品が選ばれて、びっくりしています。以前は妖怪ばかり描いていたのですが、最近では神様や仏様を多く描くようになりました。高龗(たかおかみ)自体は昔から伝わっている神様で、これを現代のイメージで描いてみたのがこの作品です。水の神様なので竜で表現し、横顔ではなく正面を向かせて迫力を出しています。また、ペンを使っている箇所があれば、岩絵具を使っている箇所もあったりと、黒に幅が出るように描いています。ただ、水墨画に挑戦するのはこれで2回目。筆に含ませる水の量と滲みのバランスにまだ慣れていないため、偶然にまかせて描いたところもあります。
木島 孝文
「A.R.#994 "Veronica" わらう獣、
 山羊と花」
2016年
作家のコメント
いわゆる日本画とは違った素材を使っているので、入選の知らせを聞いた時は正直驚きました。ただ、自分としては現代的なアプローチで日本画の技法を駆使しながら描いているので、今回日本画のカテゴリーで評価していただけたのは、うれしいです。私は普段から「どんな文化圏の、どんな言語を使う人にもわかりやすいもの」ということを心がけて制作しています。言語を超えたところでわかりあえたらいいなと思っているので、優しさ、厳しさ、残酷さなど、人間の営みのなかで不可欠な要素をモチーフに込めて画面にしています。私からは言えませんが、0と1で絵の中にメッセージを描いているので、なんだろうと興味をもってくださった方は、ぜひ解読してみてください。
佐藤 真美
「光の脈」
2017年
作家のコメント
自分一人ではここまで制作活動を続けることも、こうした発表の場を持つこともできなかったと思います。今まで応援してくれた方たちへの感謝の念で胸がいっぱいです。この作品は山をモチーフにしていますが、山の風景を描いたというよりは、木や虫、鳥など、たくさんの生き物が集まって山の形をしているということを表現しました。山の部分は、木炭を布や指で擦り込み、練り消しや指を使って白い部分を徐々に書き起こす作業を何十回も繰り返して描いています。モノトーンでどこまで表現できるか…。木炭を擦り込む回数を重ねることで、だんだんと納得のいく形になったと感じています。
椎名 絢
「宿・中庭」
2015年
作家のコメント
入選については、驚きと、うれしさと…、驚きのほうが大きいですね。この作品は、全国にいくつか残っている昔の遊郭などを巡って描いているものの一つです。日本画の王道ともいえる美しい場所ではない、忘れ去られてしまいそうなものの中にある面白さ、それが存在している意味を考えながら、あえてそういう場所に行って描いています。スケッチをそのまま絵にすると、魚眼レンズのような歪んだ感じになりました。きちんと手入れされていない茫々とした庭を見た時の、時空を超えたような印象が歪みとして無意識に出ているのかもしれません。
田中 武
「斉唱―神7の唄」
2017年
西治コレクション
作家のコメント
今回、制作した『斉唱~神7の唄~』は、福島などに広がる土嚢袋の上に立って歌う7人の女性を描いています。彼女たちが着ている服には、日本にある原発と同じ数だけのポケットを描きましたが、これから私たちに訪れる"福"には全てこうした"難"が付きまとうけれど、その中でどう生きていくのかを自身に問う意味で制作しました。
日本画や洋画といったジャンル分けの役目はもはや終わっており、そうしたジャンルにしがみつくよりも、時代性を反映する絵画を作り続けることが私にとって肝要です。
谷保 玲奈
「ウブスナ」
2017年
作家のコメント
新聞を読んで本当に入選したんだと知りびっくりして、よくわからないけど泣きました。すごくうれしくて、これからも頑張ろうと本当に強く思いました。タイトルの《ウブスナ》は自分が産まれた土地を意味する「産土」からきています。スペインのマヨルカ島に滞在した時、山や空気、そこにあるものと毎日対峙しているうちに、自分がその土地と一体化しているような不思議な感覚を描きたいと思ったのが制作のはじまりです。基本的に身近なものをモチーフにして描くことが多いのですが、スペインで食べたムール貝やスーパーで買ってきたザクロなど、その時の衝撃が忘れられないものたちを織り交ぜて描いています。
長澤 耕平
「ある都市の肖像」
2014年
東京藝術大学
作家のコメント
都市の風景を主題にずっと制作をしていて、この作品は大学博士課程修了の集大成として描いたものです。都市の町並み、建物の一つひとつをひたすら描き連ねていくというスタイルのなかで、大きくすれば大きくしただけパワーのある画面になると思い、物理的な環境が許す限りのサイズで制作しました。日本画といえば花鳥風月ですが、東京で生まれ育った私にとっては大自然よりも街の風景のほうがより身近で、おのずから存在しているもの。都市計画の行き届いたところを上から見ると、マス目状になっているけれど、そこから外れた周辺部になると勝手に街が広がってぐちゃぐちゃしていく。それはとても生物的でもあり、人間が作り出した"自然"というのが表象されている部分なのではと感じています。
中澤 美和
「環る景色」
2017年
豊橋市美術博物館
作家のコメント
学生の頃から憧れていた賞に入選することができてとても感動しました。この作品を描こうとする半年ほど前に二人目の子どもの妊娠がわかったのですが、ちょうど同じ頃、母が倒れて…。産まれること、死ぬかもしれないこと、命に対して切実に考えなくてはいけないことが重なり、先に進むためには、今感じていることを何かしらの形にして出さなければいけないという切羽詰まった感じがありました。描きたいから描くということではなく、初めてテーマ性をもって、自分と向き合いながら描いた作品です。
伴戸 玲伊子
「流水譚」
2016年
作家のコメント
この作品は過去に上野で展示したことがあるので、またこうして上野に戻ってこられて大変うれしく思いました。私は海外留学後、日本の湿度のある空気を感じた時に、日本の美の原点は水にあると感じたところから、「水」をテーマに取り組んでいます。雲が雨になり、川になり、海に注いで、また雲がわくという水の循環のなかに、いろいろな土地の風景を織り込みながら、水の叙情詩を描くように作品を創っていきたいと考えています。今回の作品は複合風景画で、取材地は宮城、滋賀、京都。実は右隻は宮城の松島を題材にしていますが、ここは震災で水によって被害を受けた場所。けれど、水がつくった湾によって大きな被害から守られた場所でもあるので、美しい松島をぜひ描きたいと思っていました。
土方 朋子
「かへりゆく」
作家のコメント
私は絵をすべて屋外で描きます。一年中、同じ場所で、そのときどきに感じとったものをそのまま描きとめていくのが私の描き方です。身をもって自然と向き合い、何かが生まれて消えていくこと、私がここにいること、そういうことをずっと同じ場所で描かなくてはいけないという感覚がなぜだかあります。そうしていると、たまに自分が消えてしまうような、気持ちのいい感覚に陥る時も。紙も絵の具も、肌に合うかどうかで選択します。今回は筆で描いていましたが、もっと作品と一体になりたいと思ううちに、最後の方は筆ではなくて、指で描いている箇所もあります。
松平 莉奈
「菌菌先生」
2016年
作家のコメント
まさか入選できると思っていなかったのでびっくりしました。貴重な機会をいただき、ありがたく思っています。この作品は江戸時代の《金々先生栄花夢》という夢の中のできごとを描いた黄表紙の話に着想を得ています。実態がないけれど存在しているものを絵に描くと、どのような絵になるのかを考えながら描きました。作品にはスマホでダイエット情報を検索する少女と、吹き出しの形に連なるタンパク質の二次構造を描いています。自分よりも体のことをよく知っているスマホ、目には見えないけれど社会の共有事項である吹き出しや二次構造。現代の私がどういう社会を生きているのか、昔のものを照らし合わせながら取り組みました。
森 美樹
「声」
2016年
作家のコメント
6年前に一度入選し、その時に会場で自分の作品を見て、自分のあり方について自問自答しました。絵画の基本である写生を大切にしよう、自然から受け取ったことを素直に絵にしていこうと決意を新たにするきっかけになり、今回の《声》にもつながっています。この作品は冬の枯野の中にまだ青みが残るキイチゴの枝葉を見て、死の世界の中に生が残っていることに心を大きく揺り動かされた体験をもとにしています。風にのって一瞬聞こえてきた少女の澄んだ歌声が、自然の声を聞いたようにも思え、印象深く心に刻まれていました。その時の思いを再現できないかと思って描いたのがこの作品です。
山本 太郎
「熊本ものがたりの屛風」
2017年
熊本市現代美術館(子供の思い出銀揉紙屏風)
公益財団法人 島田美術館(森本襖表具材料店襖)
作家のコメント
今回出品している作品は、私の故郷、熊本で震災被害にあわれた「森本襖表具材料店」の屏風を活用したもの。震災の復興を願った作品を多くの方に見ていただけてとてもうれしいです。屏風にはさまざまなモチーフを描いていますが、私が選んだものは一つもありません。熊本の島田美術館を通して、熊本の方々に描いてほしい自分の宝物を公募して集まったものを描いています。一つひとつに誰かの思い入れがあるモチーフばかりですが、意図的に集めたわけではないので、エピソードごと、あるいはモチーフごとに吟味し、再編集し直し、ひとつの屏風に収めていきました。絵描きというより編集者のようなことをやった部分が面白くもあり、苦労もあったところです。

女性のハレの日金屏風

子供の思い出銀揉紙屏風

森本襖表具材料店襖

みんなの思い出腰高屏風

おもかげ屏風

いと小さきもの小屏風
山本 雄教
「One coin people -15480円の人々-」
2017年
作家のコメント
高校時代の恩師に日経日本画大賞展の図録を見せてもらったのが美術に触れた原体験の1つです。今回の入選は、喜びの気持ちとともに、今後の制作の糧になると思います。フロッタージュという技法を使い、貨幣の最小単位である1円硬貨で描き出した群像は、閉塞的な社会における人間像をあらわしています。1円玉を羅列するというデジタル的な表現と、こするというアナログ的な表現を併せつつ、今の人間は果たしてどこへ向かうのかということを考えながら描いた作品です。離れて見ると、この絵には何が描かれているかがわかる。物事を近視眼的にとらえるのではなく、引いてみることの大切さも感じ取ってもらえるとありがたいです。
𠮷賀 あさみ
「黙」
2017年
豊橋市美術博物館
作家のコメント
日本画のフィールドで発表する機会は少ないのですが、私の作品は今まで学んできた東洋美術や日本画をベースにしているので、今回の入選は励みになりますし、うれしいです。私は墨やカラーインクなどを使ってドローイングした透過性のある薄い布地を何層にも重ね合わせて一つの作品を制作しています。天井から垂れ下がったもの、床置きのものなど、展示空間と呼応するように創るのですが、今回は一つの画面の中で、一つの絵として構成してみました。展示場所の光の設定、絵の具や墨の色味、そして影。影がつくる色味や暗さも奥行きを生み出す要素です。それら全部を考慮に入れて、最終的な形を想像しながら制作しました。

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